野良犬・黒と少年の釣り日記|第一話:秘密の場所にいた相棒

野良犬・黒と少年の釣り日記 伴侶動物コラム&体験談
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こんにちは、fukumomo3_Photo(@fukumomo8_com)です。

昭和70年代の終わり、まだ野良犬が当たり前のように町を歩いていた時代。

小学生だった僕は、放課後や週末になると、自転車を走らせ「秘密の場所」に向かっていた。

そこにはいつも、黒がいた。

首輪もなく、どこからともなく現れる、ゴールデンレトリバーのような黒い犬。

魚が釣れると、黒は嬉しそうに跳ね、僕が座ると隣にちょこんと座る。

ただそれだけの時間が、なぜか心地よかった。

これは、そんな僕と黒が過ごした、静かで穏やかな日々の記録だ。

野良犬・黒と少年の釣り日記

少年を見守る野良犬の黒

第一話:秘密の場所にいた相棒

 人生で最初に出会った犬は、野良犬の黒。時は昭和の70年代終わりから80年代の初めの頃になる。私は、小学生のころ魚釣りが好きで、学校から帰ってきてからの短い時間や週末など、はては早朝から釣りに出かけるほどの釣りキチだった。きっと父親の影響が強いとおもう。その魚釣りをする秘密の場所にいつもいるのが野良犬の黒だった。見た目は、ゴールデンリトリバーのように垂れた耳で筋肉質な体つきだった。秘密の場所にいくと必ずどこからともなく黒はくる。秘密の場所といっているが、釣りキチなかまと決めた「よく魚が釣れるポイント」なので、人が来ないわけでも、秘境でもないので人もたまにくるし、犬やほかの野良猫もくる。

昭和80年代初め頃までは、野良犬や野良猫は探さなくとも向こうからやってきた時代だ、ちょっとした農道に入り家畜小屋付近を探索したり、朝のゴミ捨て場にいけば野良犬に出会えた。段ボール箱に子犬が捨てられている絵などを見つけることがあるだろうが、あれは、リアルであり、昭和のあの時代では本当にあったことなのだ。黒もその中の一人であり私の釣り仲間である。

日曜日の早朝。朝まずめの魚のはねる時間帯に合わせ自転車にのりこみ秘密の場所へ。到着すると誰もいないので、早速しかけを用水路の柵の隙間から仕掛けを落とし込む。そう、秘密の場所は用水路の溜池である。用水路の溜池には、さまざまな魚も溜められているのだ。夜店で採ったが親に叱られてこの用水路に逃された錦鯉の子供などもいるので、釣りをしていて楽しい場所だった。仕掛けを入れて数分でアタリがある。指先に感じる微妙な振動と魚から伝わる気のようなものだろうか?この瞬間が釣りの醍醐味だ。竿を使わない脈釣りなので、魚とのかけひきを楽しむ。

背後から気配がする。黒だ。振り向くと黒がいる。シッポを大きく振って私を見つめながら吠えるでもなく口を開けて、喋りかけるようにはねる。用水路のグレーチングの上を歩くことが怖い黒は、私のすぐそばにくることができないので、四角のコンクリート部分をグルグル回りながら、私のことを待っている。ちょっと嬉しいので、いや、これをまっていたので、釣りのポイントを用水路から用水の吐き出し口に移動する。

グレーチングを歩き黒の元へ。飛びつく黒。ちょっとベタついた体を撫ぜる私。これが、いつのもの挨拶だった。いつもの挨拶が終わり第二の秘密の場所に移動するときもずっと後ろを歩いてついてくる黒。当然リードなどないし、首輪もついていない。竿を出し本格的に魚釣りを始める。この第二の秘密の場所には、夜店の錦鯉の子供の10年後を見ることができる。そう、立派な錦鯉が泳いでいるのだ。このいつも上の方を回遊している錦鯉を釣るのではなく、その錦鯉の下に時々みえる大きな影の正体を知りたいというのが、最大の目的である。先ほどのグレーチングのところとこの吹き出し口は繋がっているので、朝まずめはグレーチングの下から狙い、陽が少し登り、黒が顔をだすころに、吹き出し口に移動するといった流れだ。

今日は、錦鯉の下に大きな影は見えない。家で作ってきたおにぎりを出し食べる。水筒から水を飲んでその蓋に水を入れると黒は嬉しそうにその水を飲む。おにぎりは私の朝ごはんなので、あげないのだが、黒は不思議なことに欲しがらない。用水路の吹き出し口の座りやすい土手のいつもの場所に座り、釣り糸の先のウキをじっと見つめる二人。黒はなぜかいつも横にいて、ただただ横にいて私の釣りを見ているのだ。そのとき、ウキが突然沈んだ。魚だ!。慌てて竿を持ち上げ合わせを入れる。竿に魚の振動が伝わる。横に走る魚の逆に竿を寝かしこちらに魚を引き寄せる。それほど大きくもないので、すぐに土手の上にあがり「ビチビチ」と跳ねる。それを見てはしゃぐのが黒の仕事。とにかくその「ビチビチ」と跳ねる魚に合わせてジャンプしたり、魚の周りをクルクルと回ったりするのが楽しいらしい。

大きな影でもないし、この魚を食べるわけでもないので、釣り針を外し吹き出し口からでる水の先の川に逃す。黒は、その魚を見送るように、ずっとクルクル回りながら跳ねていた。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

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