猫と私の時間旅行|第一話:9歳の少年に戻った日

猫と私の時間旅行|第一話:9歳の少年に戻った日 伴侶動物コラム&体験談
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こんにちは、fukumomo3_Photo(@fukumomo8_com)です。

9歳のとき、私は猫に捨てられた。

段ボールの中で震えていた野良猫を拾い、一緒に寝た。だけど、翌朝にはいなくなっていた。

それが、私の中の「猫」という存在のすべてだった。

以来、私はずっと猫を遠ざけて生きてきた。

ところが、ある日──。

いつものように保護施設を訪れた私は、相方に連れられ、分厚い鉄の扉の前に立っていた。

その向こうには、虐待され、傷つき、隔離された猫たちがいた。

そして、その中にいたキジトラの猫と目が合った瞬間、私は9歳の少年に戻る。

猫と私の時間旅行

9歳の少年と猫

第一話:9歳の少年に戻った日

 私は、猫と暮らしたことがない。多種多様の伴侶動物と暮らしてきたが、猫と暮らした記憶は、9歳のころに拾ってきた野良猫と寝た記憶だけだと思う。そのときの記憶は、映画のワンシーンのような段ボール箱の中に捨てられた猫を拾ったところから始まる。始まるが、一緒に寝て朝起きたらどこにもいなかった記憶なので、すぐ終わる。猫は、かわいいけど、自分勝手でわがままで、何を考えているのかわからない、といった、9歳の少年の心に深く刻まれた記憶だけを残して、私から遠ざかったのだ。

猫に捨てられ傷ついた9歳の言いつけを守り、ずっと猫から遠ざかっていたのだが、その日は突然訪れたのだった。いつものように保護施設を暇つぶしのように訪れて犬と話をしていると、ふと視線を感じた。相方が、「ちょっときてきて」と言う。なんだろうと気になったので、後ろについていくと、いつもの部屋の扉とは違う、重い鉄でできた扉が目の前にあった。重い扉を開けるとそこは、病気の猫や感染症などで隔離された猫の部屋だった。いわゆる猫エイズなどの他の猫と共に暮らすことのできなくなった猫たちの部屋だ。

「このこかわいいね」とケージの前にかがみこみ、こちらに振り向く相方。そのケージの中にいたのは、キジトラの猫だった。たしかに、かわいい。小さくて、キレイな丸い目をしている。すると後ろから施設の人が、話をしてきた。この猫は、虐待されていて、髭を切られたり、肌を傷つけられたりしていることや、虐待されて山の中に捨てられていたのを偶然保護できた奇跡があったことや、猫エイズの可能性があるので、ここで隔離していることなどだった。話を聞けば情が湧く。しかし、私の中の猫は、9歳の時から、「かわいい、わがまま、何を考えているかわからない」この3点のまま固まっている。

施設の人が、ケージからキジトラ猫を出して私の手の中に入れる。「みゃ〜」と一言。私の第一システムが起動した。施設の人に、猫エイズのこと、今後の病気のこと、発症してからのこと、しかし、不思議なことに、検査結果は陰性だったこと、などなどを深くマシンガンのように質問責めにして、施設の人の脳は穴だらけとなった。私の何がそうさせたのかは、今もわからないけど、ただこの猫と暮らすというイメージが私の頭の中で描かれたのだ。それも鮮明に、はっきりと、リアルに、時の流れを遡るように、あの9歳の少年から逃げた猫が戻ってきたような感覚すらこの時に感じたのだからだ。もしかしたら、この猫の遺伝子やミームの中に、あの時の猫がいるのではないかといった錯覚すら感じたのだ。いや、きっとそうだと今なら断言できる。

去勢手術をする書類などさまざまな契約書にサインをして、施設を出た。運転席には、相方が座り助手席は私。その膝の上には、キジトラ猫がいる。とても不思議だった。9歳の少年に戻った気持ちで、膝の上にいる猫を見る。帰り道に施設で食べていたものと同じメーカーの食べ物と、これから食べてもらいたい食べ物を購入して帰る。その間も、このキジトラ猫は、「みゃ〜」とずっとしゃべっている。話しかけるが、何を言っているのかわからない、当然だ私は猫ではない。しかし、犬ならばなんとなくその言葉がわかるような気がするのが不思議である。でも、猫はわからないのだ。
キジトラ猫を迎えた。「今日からここが君の家で、この人たちが君の家族だ」と皆を紹介して回り、キジトラ猫の名前を『トラ』と決める。基本名前をつけるときは、考えない。考えないで決めるから柴犬ならば『しば子』とかになる。犬や猫からしたら、アメリカ人に『アメ子』日本人なら『にほ子』などといった名前をつけているようなものだが、呼びやすければいいのだと、私は、名前をつけた時の直感を信じている。

夜も遅かったので、『トラ』に施設のご飯と新しいご飯を混ぜたものを食べてもらう。食欲旺盛である。うれしいことだ。生きることは、食べることであり、この子たちの仕事は、生きることなので、この子は働き者になる。ベッドに横になり、『トラ』を抱く。ゴロゴロと喉を鳴らす。ああ!猫だと猫を感じ不思議な気持ちになる。不思議と睡魔に襲われ気が付くと朝だった。左腕にいたトラがいない。9歳の時の記憶が呼び戻される。あわてて飛び起きると、胸の上に寝ていたトラがびっくりしてこちらを見る。「どうしたの?」といった表情だった。私は、少しだけ泣けた。いや、9歳の少年に戻り泣いた。「ありがとう…ありがとう…」とぶつぶつ言いながら泣き、ぎゅっとトラを抱きしめた。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

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